Connecting the Dots
海原 拓朗さん 平成27年度電子情報工学科卒業
高専を選んだ理由を教えてください
小学生の頃からゲーム製作に携わる仕事を夢見ていたので、長野高専の電子情報工学科の存在を知ったときにココだ!と決めました。長野高専から任天堂に就職した先輩がいると知って、自分もあとに続きたいと必死に受験勉強した記憶があります。
高専生活を振り返って,印象に残っていることはありますか?
部活や文化祭、同好会活動など語れる思い出は沢山あるのですが、個人的に「卒業研究」が一番印象に残っています。その理由は卒業研究が、新しく興味を持てる分野を発見する機会になったからです。
ゲーム製作者になることを夢見て入学した高専でしたが、高専受験での燃え尽きと入学直前に東日本大震災が起きショックを受けたことなどで、入学するころにはゲーム製作への情熱を見失ってしまい、3年頃では興味分野を見つけられないままでした。
そんな中、4年次の卒業研究テーマ検討で「福祉工学」という専門分野を知りました。電子情報工学科での学びを応用すれば、困っている身近な人の課題を解消できる、ということに魅力を感じました。卒業研究では、点字の識別に課題を抱えていらっしゃる方々向けに、点字をなぞることでその内容を発話してくれる指装着型デバイスの開発に携わりました。
この経験から、福祉課題の解決のためにハードウェア開発技術も身につけたいと発想して、大学編入して電気電子工学を学び始めました。新しい分野を学ぶ中で興味が広がり、現在は電力とエネルギー問題に関心を移しています。高専入学前に思い描いていた進路とは別の道をたどることになったのですが、情熱を注げそうな物事を見つけられた上で進路を決定できたのは、高専の5年間という在学期間と、卒業研究のおかげだったなと思います。
高専5年次に研究発表した生体医工学会甲信越支部のシンポジウムにて
今の仕事・生活でのエピソードを教えてください
現在はNature株式会社という、IoTと電力分野のベンチャー企業で新規事業開発を担当しています。Nature株式会社は、家にあるエアコンなどの赤外線リモコン付き家電をスマートフォンから操作できるようにするスマートリモコン「Nature Remo」を始めとした製品を開発・販売しています。
私の仕事は、Nature Remo を使うお客様へ、新しい電気の利用方法を提供することです。電力会社が節電してほしい時間に、あらかじめ許可をいただいたお客様のNature Remoからエアコンなどの家電を自動で操作し、節電するというサービスを育てています。お客様は節電した分だけ電気代を削減でき、かつその節電が電力の安定供給への貢献になるというお客様も電力会社もWin-Winとなる取り組みです。
新規事業開発と言うと馴染みのない仕事に聞こえますが、仕事の内容は工嶺祭のクラス企画に似ているなと感じています。もちろんクラス企画ではサービスの収益性を分析したり、サービスの継続的な改善まではやりませんが、「サービスを企画し、開発したものをお客様に届けて反響を測る」という基本的な部分は今の仕事と同じです。私は高専3年から5年にかけてクラス企画責任者としてクイズゲーム、音ゲーム、シューティングゲームの展示を主導したのですが、当時の企画やマネジメントの経験が今の仕事に役立っていると実感することもあり、夢中になって取り組んでて良かったなと感じています。
高専4年次の工嶺祭とキッズサイエンスで展示した音ゲーム「OSAMOVE」
後輩や高専を志望する中学生に伝えたいことはありますか?
私は今、ゲームを作りたかったというきっかけで学び始めた情報工学と、福祉工学の研究に携わりたくて学び始めた電気工学を、いずれでもないIoTと電力分野の仕事に活用しています。その時々の興味分野を学んで得た知識と経験が、偶然にも今の仕事に役立っています。振り返ると、これがスティーブ・ジョブズが有名なスピーチで言っていた「Connecting the Dots (点と点を繋ぐ)」ということなのかなと感じています。
高専で学ぶ皆さんは、10代のうちから工学を学ぶという点を人生に置いています。高専生活に充実している人、少し思い悩んでいる人、これからも同じ分野に携わり続ける人、そうでない人、状況は様々かと思います。ただ、将来の思いも寄らない「Connecting the Dots」な展開を期待して、今学んでいることや取り組んでいることに熱中することもアリかなと考えます。
(2022年2月掲載)